公開を目前に控え最高潮の高まりを見せる中、この度映画『憐れみの3章』公開を記念して、ライムスター宇多丸さんが送るTBSラジオの聴くカルチャー番組「アフター6ジャンクション2」とのコラボによる特別試写会を実施しました!上映後にはメインパーソナリティの宇多丸さんと月曜パートナーを務める宇垣美里さん、小柳帝さん(ライター/編集者)によるトークショーを開催しました。
109シネマズプレミアム新宿ではランティモス監督作品を語るうえで欠かせない35mmフィルム上映が9月27日(金)から日本で唯一実施されますが、この特別試写会では日本最速で監督こだわりの35mmフィルムを上映。一足早く本作を鑑賞した観客からは「ランティモス文法炸裂で最高!」「3章がつながる瞬間にゾクゾクした!」「これは誰かと観て語り合いたい!」と、期待をはるかに超える新たなるランティモスワールドの到来に絶賛と熱狂の声が相次ぎ、鑑賞を終えたばかりで興奮冷めやまぬ観客を前に、ランティモス監督の集大成かつ最新作となる本作のすさまじき映像体験を思い思いに語りつくしました。
拍手でむかえられて登場した宇多丸さんと宇垣さん、そして小柳さん。鑑賞を終えたばかりの観客を前にネタバレ歓迎の熱いトークショーを開始!宇多丸さんはランティモス監督の最新作を鑑賞するにあたって脚本家のエフティミス・フィリップとの久しぶりのタッグとなることに触れ「(ランティモス監督の作品を)続けて観てこられた方はわかると思うのですが、前2作(『女王陛下のお気に入り』『哀れなるものたち』)はめちゃくちゃわかりやすくなってたんですよね。エンタメ性も高いし」と前置きし、本作では旧来のランティモス監督の再来を確信。小柳さんは「実は本作で(ランティモス監督たちは)10話分を作っていた」という裏話を挟みつつ、「その中の3つをキャッチーに並べています」と本作の構成を説明。宇多丸さんは「支配と依存の話ですよね」と言いつつ、本作のメインソングに使用されているユーリズミックスの「スウィート・ドリームス」に注目。宇多丸さんは「僕はこれが親切設計だと思っていて、歌詞の意味を考えると、特に第1章と組み合わせると、全体の話が見えてくる。僕なりの表現で言うと支配と依存の話でしょう?」と考察。続けて、「要所要所で読み解けるヒントを出してくれていますよね」と本作を観るうえでのヒントを宇多丸さんならでの視点で展開しました。話はランティモス作品初参加のプレモンスに移り、宇多丸さんは「(彼の今回の演技は)ランティモス監督ぽさがありますよね」とプレモンスの好演を賞賛すると、3つのストーリーを掘り下げていきます。
第1章で描かれるストーリーには、宇多丸さんは「身につまされる人も多いのでは」と共感を示し、宇多丸さんは自身に重ね「人からお金をもらって仕事をしている人、だいたいこういうことだよねって。いくら(僕が)番組で威勢のいいこと言って、『私はできません』って言っても『あっそう、わかりました。じゃ、お疲れ様』ってなるんですよ」とままならない状況になることを例にあげ、「『本当にすみません。もちろんどんどんやります!』みたいになるなって。そんな世知辛さを感じたんですよね」と他人ごとではない、人間のありようが描かれていることを熱弁しました。
第2章は解釈の幅が広いと指摘。宇垣さんもストーリーのなかで登場するある人物について「どっちが偽物なの?」と困惑したことを明かし、観る者を惑わせる構成に宇多丸さんは「自分がこうだと思っているアイデンティティや社会的な立ち位置を取られてしまうと、何者でもなくなってしまう」というランティモス監督作品にみられるテーマ性を見出しました。小柳さんは作中に出てくる<犬が支配する島>に注目。サーチライト作品『犬ヶ島』(18)への関連性を連想したと明かすと、宇垣さんは「ランティモス監督は“恋愛関係をエゴだよね”って思っていると、(ランティモス監督作品の)『ロブスター』を思い出しながら感じました」と、様々な角度からの発見が散りばめられていることに触れました。
第3章ではそのストーリーのリアリティに言及。全世界からの注目を集める新時代のアイコンであるハンター・シェイファーの贅沢な使い方に驚きを感じつつも、カルト集団を軸に展開するストーリーについて小柳さんは「宗教の外の世界に行ってもどこにいっても地獄」という描かれ方に注目し、ランティモス監督の容赦ない世界の捉え方が投影されていることを考察しました。
他にも、第1章目でプレモンスが着せられている服、あえて外すことを狙った選曲、クレジットの出し方、ストーンが第3章で見せるあり得ないドリフト駐車など、ランティモス監督らしさ満載のユーモアの存在を多数挙げると、観客たちの笑い声が会場から湧き上がり、ランティモス監督作品では見逃せないユーモアを観客たちと共有。映画鑑賞後の最高度の熱量のままに大いに語り合ったイベントは終盤を迎え、宇多丸さんは「こんな構造の非人間的なものを含む搾取的な構造の中にいるとして、あなたもさらに弱いものを叩くというところに加担していませんか?と語り掛けるところが、一番突き付けてくるところなんです。基本的にこんな意地悪な映画撮る人だけど、やっぱりまじめな人だなって思いますよね。意外と真っ直ぐな人なんじゃないの?」と本作の随所ににじみ出るランティモス監督の人間味にラブコールを送りました。
最期に宇多丸さんは「解釈が開かれている作品で間違いない。体感で言うと2度目がより楽しい。ちょっとした表情でも笑えてくるし、あと画角ね。なんでここから撮るの!?ってね」と語ると、宇垣さんも「間違いない」と賛同。回を重ねることに楽しみを見つけることができる作品であることをアピールし、ランティモス監督の贈る衝撃と興奮の映画体験を全身に受け止めて、特別試写会とトークショーは幕を閉じました。